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人が眠る理由は解明されていないが、睡眠が人類を進化させた−−筑波大学IIISに聞く睡眠の本質

 

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突然ですが、毎日しっかり眠れていますか?

眠れている人も眠れていない人も「人は生きている時間の1/3は眠っている」という話を一度は聞いたことがあるはず。これだけ人生の割合を占めていると、こだわりの枕やマットなどで眠りの質を求めたり、最近では睡眠カフェや眠りをデザインするホテルなどが登場したり、睡眠に対する人の探究心は尽きません。

でも、そもそも人生の1/3をも捧げる睡眠ってなんなの?人はなぜ眠るの?そんな疑問が浮かんできませんか?考え始めたらなんだか眠れなくなりそう…!

そこで、実は意外と知らない“睡眠”について、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(※1)の柳沢正史教授にお話を伺ってきました。

「なぜ眠るのか?」それは2千年前からの疑問

Too Many Question marks, only one red

編集部:今回は私たちが毎日、当たり前に行っている「眠ること“睡眠”とは何なのか」についてお話を伺いたいと思います。

柳沢正史教授:なぜ人間は眠らなくてはいけないのか、眠るのかという疑問は、古代ギリシャ時代から続いてるそうで、当時はいわゆる科学というものはなまだないのに、ギリシャの自然哲学者がそのような自問を既にしています。

進化論的に言えば、睡眠中は意識を失うため、極めてリスキーな状態であることは間違いない。そのリスクを超えるベネフィット(価値)がなければ、睡眠は保存されなかったでしょう。だから、眠らなくてはいけない何か非常に強いベネフィットがあるはずなんです。

編集部:ギリシャ時代からあった疑問だったというのは初耳です。

柳沢教授:覚醒時の動物や人間の脳には五感から凄い量の情報が流入し続けるわけです。脳の情報容量には一定の限界があるので、当然そのままでは行き詰まるわけで。

そうなると、いらないものは整理して取捨選択するなり、重要なものはより強固な記憶に固定するようなメンテナンスをしないといけない。その際に、覚醒中すなわち意識がある状態(オンライン)では、今言ったようなメンテナンスができないのではないかと。

だから脳のメンテナンス作業を行うのに一度(眠って)、オフライン化しないといけないのだという学説があります。

編集部:その学説は聞いたことがあります。脳の解剖をされていた方を取材させていただきましたが、同じことをおっしゃっていました。

柳沢教授:これは専門用語で「シナプス恒常性仮説」といいますが、専門家の間ではよく聞かれる仮説です。

これが正しいと思われる状況証拠はいろいろありますが、きちんと証明することはとても難しく、証明する道筋・目処が立っているわけではないというのが現状です。

だからこの疑問は2千年解かれていなくて、未だに満足のいく答えはない。つまり、「未知」なんです。

睡眠のメカニズムは全く解明されていない!

Beautiful young girl sleeps in the arms of space

編集部:解明されていない、ということですね。

柳沢教授:睡眠学には大きな謎が2つあって、1つが「なぜ人や動物は眠るのか」。もう1つは、睡眠がどう調節されているかという「睡眠の恒常性制御」について。

さっきの話にも繋がりますが、我々の脳は近過去の覚醒量を累積的に常にモニターしていて、その累積値が上がってくると眠くなってくるわけです。これは数日くらいのタイムスケールで起こるし、1日以下のタイムスケールでも起きます。

1日眠らなかったら眠くなったり、4時間睡眠が3日続いたりすると、ほとんどの人は眠気が蓄積していく。寝ていいよと言われれば、8時間、10時間と寝ることができる。そういうフィードバック(変化を元に戻すような作用)が強力にかかっていて、これを「睡眠の恒常性制御」と言っているのですが、そのメカニズムは全く解けていない。

編集部:全然なんですね。

柳沢教授:全然です。例えば、体の疲れは横になるとか、ゆったりした椅子に座ってゆっくりしていればとりあえず治りますよね。でも眠気は絶対に眠らない限り取れない。

「眠気」は誰しもが感じる感覚ですが、脳内で眠気物質のようなものが溜まってくるのか、それとも神経活動の変化によって起こるのか、その実体が一切分かっていないんです。

神経科学が急速に進歩しているので、たとえば視覚や聴覚、嗅覚といった五感の情報処理が脳でどう行われているかは、かなり詳しく分かりつつあります。でも「眠気」については、驚くほど分かっていません。

「睡眠=脳の休息」は間違い!?

Coffee break at morning concept with laptop serene morning vintage editing style

編集部:睡眠中は脳が休んでいると聞きます。

柳沢教授:よく「睡眠は脳の休息」と書いてありますが、違います。

編集部:睡眠時にも脳は休んではいないと。

柳沢教授:睡眠中の脳は「休んでいる」のとはかなり異質な状態です。脳のエネルギー消費が凄く落ちるとかであれば、臓器として休んでいるという言い方ができると思います。

でも、実際にはほとんど(エネルギーの消費が)落ちない。スイッチが入りっぱなしのコンピューターを想像していただけると近いでしょう。眠ることで時々(スイッチオンのまま)オフラインになり、メンテナンスするイメージで、決して休んでいるわけではないのです。

編集部:脳のメンテナンスや記憶を強固なものにする方法や技術などが見つかった場合、人間は将来的に眠らなくていい生活ができるようになりますか?

柳沢教授:ないですね。ヒトの進化の中で、7時間なり8時間続けて深く眠り続ける能力というのは、おそらく大脳の発達とリンクした人間ならではの能力なのです。

専門的に言えば「共進化(co-evolution)(※2)」と言いますが、脳が発達することがそういう睡眠のデマンド(需要)を産み、その中でも特に深く続けて眠る能力が更なる脳の発達や記憶力の増進、思考力等を助けるなどの高度な脳機能を獲得していったのではと考えられています。そして脳が発達すれば、眠っている間の安全をより確実に確保して、より安心して深く長く続けて眠れるようになる…と。

サルも含め他のほとんどの哺乳類は、多相性睡眠といい昼も夜も10回、20回、何十回も寝たり起きたりを繰り返していますので、人間だけが非常に長く深く続けて眠る能力がそなわった動物といっても過言ではありません。

編集部:確かに動物の睡眠は1回が短く、時間を問わないですね。

柳沢教授:これは何百万年もかけて獲得してきた形質なので、小手先で変えられるものではないし我々の脳はそのようにできていない。これが結論。

よく「どうしたら効率よく短い時間で質の良い睡眠をとることができるのか?」と聞かれますが、私の答えは、それはゴールが間違っていますよ、と。睡眠は、そんな簡単なものではなく、ちゃんと夜間に6〜8時間の続けた就寝時間を確保できるような生活をするべきで、そっちがゴールであり優先しないといけないことなのです。

睡眠不足はパフォーマンスの低下だけでなく、生活習慣病のリスクも

Woman stretching near bed after wake up

編集部:最近は働き方改革とかで労働生産性を上げるみたいな話になると、しっかり眠りましょうとか、短時間睡眠について語られることがあります。

柳沢教授:睡眠不足による生産性の低下は、一所懸命やっている人にとっては自覚症状が出ない場合も多い。

インテンシブな(集中した)作業を長時間続け、一晩徹夜すると、酔っぱらった状態程度までパフォーマンスが落ちるということが言われています。これは、もっと慢性的な寝不足状態も同じです。

9割以上の成人の必要睡眠量は、1日に7時間±1時間くらいの中に入ります。「俺は5時間でいい」という人がいますが、恐らくその人が本当に必要としている睡眠量は取れていないでしょう。

あくまで本人がそう主張しているだけで、その人本来の姿よりも遥かに低いパフォーマンスで“凌いでいる”だけで悪循環。

編集部:睡眠不足は累積していきますよね。年単位で蓄積されていくのでしょうか?

柳沢教授:睡眠不足の蓄積はもっと早くて、1週間、数日単位で来ます。ほとんどの人は、週末とか休みの日に長く寝てなんとか借金を返している。

年単位などの長期の借金はできなくて、数日からせいぜい1週間。慢性的に寝不足の状態を長く続けていると、肥満や糖尿病、高血圧、鬱病にもなりやすくなることが、疫学的には証明されています。世の中で言われている生活習慣病に対するリスクが確実に上がるということ。最近ではがんや認知症のリスクも注目されています。

編集部:例えば仮眠を取るとか、その人に合った睡眠時間(眠り方)というのは全くないのでしょうか?

柳沢教授:全くないとは言わないけれど、ほとんどの人にとっては、7時間とかまとめて夜にぐっすり続けて寝るのが最良。

仮眠は非常手段と思った方がいいでしょう。寝不足で昼間眠いとか、午後どうも能率が上がらないという時に、昼過ぎに仮眠を取るのは取らないよりは絶対に良い。

編集部:仮眠が非常手段というのは?

柳沢教授:昼寝を推奨している企業とか学校とかありますが、仮眠はあくまで非常手段だと思った方がいいということ。

最近言われている勤務間インターバル、つまり帰宅してから翌日出社するまで最低でも10時間確保するとか、そういう方が大事だと僕は思います。何度も言うように、それが人間の本来の姿だし、人間の脳はそういう風にできているはずだからです。

睡眠のリズム取りにはアイマスクとルーチンがおすすめ

Couple Wearing Eyemask While Sleeping On Bed

編集部:睡眠に関するものでこれは買った方がいいとか、おすすめの物はあったりしますか?

柳沢教授:睡眠関連グッズのおすすめ…意外と思いつかないですね。強いて言うなら、私も愛用していますがアイマスクかな。人間は暗くないとよく眠れないため、寝室を完全に暗くできない場合など、周りの環境に左右されづらく睡眠のリズムも保たれるのでおすすめします。

編集部:アイマスクですか。最近はApple WatchやFitbit等、いわゆる腕に巻きつけて生体情報を読み取って、睡眠時間等が分かるというものが増えていますが。

柳沢教授:そういう物を自己申告の睡眠日誌と一緒に使って、睡眠時間を推定するような学術的調査も行われています。ですが、残念ながら睡眠を正確に客観的に測ろうと思うと、頭の表面に電極を付けて脳波を測らなくてはいけないのが睡眠の面倒臭いところです。

本当の睡眠(計測)とは離れてしまっている部分はありますが、そのようなデバイスを趣味として使う分には自由ですね。あと睡眠のリズムを作るなら、寝る前にルーチンを決めるのもいいでしょう。

編集部:これをやったら寝るということを毎日毎日。

柳沢教授:ベッドに行ったら眠くなるという一種の条件付けで、健全なルーチンを形成するのは不眠症の認知行動療法の考え方でもあります。しかし、患者さんにとっては、これをきちんと守ろうとすると結構きついので、あまり過多に気にしないことも大切。

典型的な不眠症は、今日も眠れないんじゃないか、今日はいつもより眠るのが遅くなってしまうんじゃないか、という不安が余計不眠を生む。それで悪循環に陥る患者さんも多いので、睡眠時間は±1〜2時間ずれるのは構わないと大らかに考えることが人によってはいいかもしれない。

編集部:気にしすぎないことですね。最後に、先生の人生の目標とかゴールとは何でしょうか。

柳沢教授:プライベートの方は、できるだけ長い間、健康でいてピンピンコロリがいいなと。

職業人としては、自分で言うのはあれですが、僕は純粋・単純な人間だと思っていて、まだわかっていないことを知りたい。

特に睡眠学に関しては、先ほど述べた謎の2つ目である「睡眠の調節メカニズム」を強く追及していきたい。主にはマウスなどの動物を使ってメカニズムを解き明かそうとしているのですが、そのアプローチだけでは限界があるので、最近では臨床医や疫学者と組んでヒトを対象とした研究にも手を広げました。

働く人1000人の睡眠測定を行って本物のロングスリーパーやショートスリーパーの人を探しだし、その人の遺伝子まで調べて、「睡眠量を決める遺伝子」を特定していこうという壮大な計画。実は、ヒトを対象とした研究に関しては、まだはじまったばかりで圧倒的に研究費用が足りないのでクラウドファンディング「人はなぜ眠る?最適な睡眠とは?「睡眠の謎」に最新の科学で迫る(5月31日23:00で終了)をはじめました。

自分達のところだけで解けるとは思っていないので、いろんな人の助けを得ながら、睡眠の謎の解明に少しでも貢献できたらいいなと思います。

編集部:我々も謎が解明されることを楽しみにしています!ありがとうございました。

※1:筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構
※2:共進化(co-evolution)とは、2つ以上の異種の個体群が相互に関係しあって、ともに進化する現象。(Weblio辞書より

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